いまさらそこまでセンシティブにはなれないな

はてなブックマークで注目を集めている記事から。
O-157の流行に絡めた、食肉加工業界の実態に関する警鐘っぽい記事なのだが・・・ごめん、この手の内容をいまさらパンドラの箱だとは思わないなぁ。

パンドラの箱を開けよう。最近のペッパーランチに代表されるハンバーグ店でのO-157の発祥は単なる食中毒ではない。これは完全に食肉産業の構造的な病いだ。はっきと言おう。生焼けの肉にOー157が混入しているという事実が示すのは、その肉に牛の糞が混じっているということだ。多くの人は文字通り「焼け糞の混じった肉」を食わされている。(もちろん、混じっている糞はほんの微量だから誰も気がつきはしない。そして不幸なことに生焼けの糞肉を喰わされた人々が発症している)これは紛れも無い事実だ。この問題を知ったのは、エリック・シュローサーがマクドナルドについて徹底的に調査して書いた、「ファーストフードが世界を食いつくす」(日本版の出版は2001年8月)という本のおかげだ。この本読み終わって、ゾっとした。いや、本当に、マジかよ。悪夢だ。もう二度とマクドナルドやチェーン店のハンバーガーやハンバーグ、牛丼、スタ丼、焼肉、いや、それだけじゃない、スーパーやコンビニのあらゆる安いアメリカ産の肉なんか絶対食べたくない。心の底からそう思った。これを読んでまだマックや肉が食いたいなんて言ってるやつがいたらよっぽどのバカかノータリンに違いない。小学生だって、二度とあのハンバーガーなんかにパクつきたくなくるはずだ。笑顔でとんでもないものを売りつけてくれて、ほんと、イカれてるとしか思えないシステムだ。この、食肉業界ってやつは。


(後略・太線強調は引用者による)



これを読んでまだマクドハンバーガーを平気で喰える私は、バカかノータリンに違いないですかそうですか。
いやね、別に進んで糞を喰いたいとか、そんな気は全然ないけどさ、でもちょっとぐらい肉に排泄物が混じってたからと言って、いちいち「もう食べたくない」なんて言ってたらキリが無い*1。だいたい生物なんてモンは、疫学的見地から言えばみんなダーティなものだしね。


もちろん食の安全は確保されるべきだし、食肉加工業界に構造的な問題がある事もまた事実だと思うよ。でも、その事実を知ったからと言って、私はいまさらそこまでセンシティブにはなれないな。
生命を殺して食す、という行為に対する覚悟の差なのかな?
自らの手を血で汚すリスクを追わず、しかも安く肉を食いたいなら、それなりの諦観や覚悟は必須。この感覚は決して特別なものじゃないハズ。畜産家や養鶏家ならずとも、自家で家畜を飼っている人たちなら、誰でも肌で感じている事だよ。
知らないのは自然と離れて暮らす、都会の人々ばかりなりけり・・・


ただね、ここまで言っておいてナンだけど、この記事が注目を浴びていること自体はとても良いことだと思う。
ヒステリックに「もうマクドでは喰わねー!」と叫ぶだけならナンセンスだけど、そこから一歩進んで、「ただひたすら安けりゃいいってモンじゃない。肉にも野菜にも相応の価値がある」という所に行き着くならば、その入り口としては非常に意義の高いエントリーだと言えるだろう。


なお、食品の価値や食肉牛の飼育に関する話については、私も定期的に見ている“やまけん”こと山本謙治氏のblogに詳しいので参考にされたし。
特に下記アドレスから続いている短角牛オーナー制度の話は興味深い。氏は自分がオーナーになった牛に“さち”“国産丸”と名付けて育てているが、その目的は近い将来、肥育を終えたそれを“つぶして”食肉として食べることにある。
残酷で心が痛むかも知れないけど、肉を食う、というのはそういう事である。


やまけんの出張食い倒れ日記: 命名「さち」。我が短角和牛の母牛から産まれた可愛い可愛い子供に名前をつけた。岩手県二戸市は今日も温かな春日だった
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2008/04/post_1161.html


血を嫌い、汚れを嫌い、またその一方で安価さや手軽さばかりを追求し続けた結果が、冒頭にあるようなマクドナルドの食肉加工工場の実態であるとすれば・・・その対局にあるのが“やまけん”blogに紹介されているような、地道な畜産業の世界である。
こうして作られた肉は絶対に安くはないし、トレーサビリティの裏側には「殺して食べてる」事を実感できる、という副作用もある。


どちらを支持し、どちらを好ましく思うか・・・それは人それぞれだろう。


ファストフードが世界を食いつくす

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日本の「食」は安すぎる 「無添加」で「日持ちする弁当」はあり得ない (講談社+α新書)

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*1:牛とか大型の哺乳生物だとイメージ悪いけど、魚類のワタとかだったら、割と平気で喰う人多いでしょ? あるいはホタテやサザエの消化・排泄器官をいちいち切り取って食べる人がどこにいる? 「貝類と哺乳生物のそれとでは、感染率も毒性も違う」と言われるかもしれないけれど、貝の消化器官や排泄物にたってさまざまな貝毒が潜んでおり、これがけっこうな率で“当たる”んだよね。目視できないほど微量の牛糞は嫌でも、魚介類の糞や消化器官は、丸ごと&複数でもOK〜だなんて、結局は食習慣上の「気分の問題」に過ぎないんじゃないのかな?